チーズ工房「乳ぃーずの物語。」

庄原だからこそおいしい!
土付き野菜に寄り添う「日本の乳ぃーず」

 「庄原愛」を感じられるチーズを作り続けている敷信村(しのうむら)農吉のチーズ工房「乳(ち)ぃーずの物語。」。

そもそもチーズというと、ワインと一緒に楽しむ大人の食べ物といったイメージがありませんか? なぜ、庄原で「チーズ」を作ろうと思ったのでしょう? 実は「乳ぃーずの物語。」の始まりは「野菜を美味しくたべるためのチーズを作りたい」という思いだったのです。本日はその辺りから、「乳ぃーずの物語。」の庄原愛について紐解いてみたいと思います。

【チーズ工房「乳ぃーずの物語。」では、生乳はもちろん、副材料にも庄原産を用いています。】
【チーズ工房「乳ぃーずの物語。」では、生乳はもちろん、副材料にも庄原産を用いています。】

<敷信村農吉と、チーズ工房「乳ぃーずの物語。」 誕生の背景>
ショップも併設された小さなチーズ工房「乳ぃーずの物語。」は、庄原の南部、県道61号線沿いにあります。この地域は、日本の酪農の礎を築いた場所。明治時代に、全国に先駆けて、国営の「七塚原種牛牧場(通称「七塚原牧場」)」が設立された地域です(現在、同所にある「広島県立総合技術研究所 畜産技術センター」の前身)。七塚原牧場では早くからバターやチーズが試験的に製造されていました。
 ちなみに現在、「OLD NANATSUKA(オールド ナナツカ)」の名前で製造されているのは、大正から昭和初期にかけて七塚原牧場で作られていたチーズを、チーズ工房「乳ぃーずの物語。」が復刻したものです。

七塚原牧場ができたことで、当時、この地域には酪農家が増えました。

 時は流れ、時代は平成。庄原市の人口減少が課題になりはじめます。七塚原からほど近い敷信(しのう)地区でも、出生人口の減少で利用者が減少していた保育所を、統廃合したうえで民間に運営委託することになりました。地域住民は、新しくできる保育所を自分たちで運営しようと会社を設立。それが敷信村農吉のはじまりでした。
 この保育所では当初から、「農」「食」をとても大切に考えていて、ふだんから子どもたちが「農」に触れる機会がたくさんあるそうです。園庭にある畑で野菜を育てたり、近くの田んぼで米を育てたり。収穫した野菜や米は、給食やおやつで食べます。

自分たちが育てて、足りない野菜や米は、近所の農家さんから分けてもらっていました。その中で、野菜の販路が少なくても困っている…という、農家さんの声を聞きます。そこで農吉では、保育所運営とは別に、農家さんを応援するために農産事業部を立ち上げ、野菜の販路拡大に乗り出しました。

さらに、自然農法やこだわりの栽培法で育てられているこれらの野菜を、もっと知ってもらう方法がないだろうか…と考えたときに、ひらめいたのが、地元の牛乳を使って「チーズ」を作ったらどうだろうというアイディアでした。それが「乳ぃーずの物語。」のチーズ作りの始まりでした。

 いくつか代表的なものを紹介します。まずピラミッド型の「燻製物語。」。こちらのチーズは、庄原の「葦嶽山(あしたけやま)」をイメージしています。葦嶽山は、どこから見ても三角形に見えるのだそう。あるとき山の巨石群を調査した人がこの山を見て「世界最古のピラミッドに違いない!」と言ったことがきっかけで、葦嶽山は「日本ピラミッド」と呼ばれるようになりました。
お湯で練って作る「パスタフィラータ」タイプのチーズを四角錘の型に入れ、1週間熟成させてからスモークします。スモークには、市内高野町のりんごのチップを使っています。
 続いて「さいてちぃーず。」。
こちらも、パスタフィラータ製法のチーズです。引っ張りながら細く延ばしていきますが、うまくやらないと太いところ・細いところができてしまいます。あとで塩水に漬けて味を入れるときに、細いと塩からくなってしまいますし、太いと味が入りにくくなり、均一な味にならないので要注意です。

こちら「雪子」は、庄原の雪をイメージしています。

  • 【チーズの説明からも、スタッフの庄原愛があふれます。】
    ※撮影時のみ、マスクを外しています。

 こちらの「朧月(おぼろづき)」はちょっとユニークなチーズです。かつお節と昆布と庄原産の干し椎茸で出汁を取り、チーズの原料となる生乳に一定の割合で混ぜます。これを2~3か月熟成させると、表面が朧月のように白っぽくぼや~っとしてくるそうです。チーズには「グルタミン酸」といううま味が含まれていますから、これって相乗効果でかなりうま味度が高いチーズ!?

  • 【二大人気もの。「カチョカヴァロ」(左)、「モッツアレラ」(右)】

  • 【工房に併設されたショップのショーケース】

 こちらの2つは「乳ぃーずの物語。」のラインナップの中でも定番中の定番。

 ひょうたん型の可愛いチーズは「カチョカヴァロ」。「カチョ」はチーズ、「カヴァロ」は馬の意味だそう。馬の鞍のように紐で吊るして熟成させることからきています。3週間以上熟成させたセミハードタイプのチーズで、こちらは何といっても焼いて食べるのがおすすめ。「野菜を美味しく食べる」に一番ピッタリくるチーズではないでしょうか。

 「モッツァレラ。」は、フレッシュタイプのチーズの代表格。
イタリア語で引きちぎる動作のことを「モッツァーレ」というのが語源。練って形を作り上げるのは職人技です。作りたてを食べるため、原料の生乳の味がとてもよく分かるチーズです。こちらもカプレーゼ(トマト、モッツアレラチーズ、バジルで作るサラダ)で知られている通り、野菜とよく合うチーズです。 「モッツアレラ。」は、ホエイ(乳清)につかった状態で入っています。白く濁っているのでチーズが溶けているのではないかと心配される方もいらっしゃるそうなのですが、そうではなく、これはホエイの特質です。通常は塩水に浸けてあることが多い中、ここの「モッツアレラ。」は、チーズの製造途中で出るホエイにつけてあります。但し、ホエイはそのままだと乳酸菌発酵が進んでしまうので、一度加熱処理をして発酵を止めてから封をしています。ひと手間もふた手間もかけたモッツアレラチーズなのです。ホエイにも栄養がたっぷ含まれていますから、捨てないで「出汁」の感覚で使ってください。味噌を溶いてお味噌汁にするのもおすすめですよ。

【チーズ工房での作業風景。朝はまだ暗いうちから作業が始まる】
【チーズ工房での作業風景。朝はまだ暗いうちから作業が始まる】

まだまだ続けたいところですが、個々のチーズの紹介はこの辺で。

酪農に限らず、農業が盛んだったこの地域の人たちにとって、牛は農耕の役牛としても大切で、とても身近な存在でした。まさに自然と牛と人が共存してきた地域です。

地域の「乳」で、地域に根差した「日本のチーズ」を作りたいという思いから、あえて「チーズ」ではなく「乳ぃーず」としているそうです。使っている生乳は、もちろん100%庄原産。チーズ工房近くの、契約酪農家さんの搾りたての生乳を使っています。

一方で、国内外のチーズコンテストで連続受賞するなど、世界に発信できるレベルのチーズを作り続けているチーズ工房「乳ぃーずの物語。」。

これからも、土の付いた野菜の隣に寄り添える、度量の広い「日本の乳ぃーず」でありたいと語ってくださいました。

ぜひ、同郷庄原野菜との「マリアージュ」を楽しんでみてください。

店舗情報

店名 チーズ工房「乳ぃーずの物語。」
住所 広島県庄原市一木町533−4
電話番号 【土・日・祝】0824-72-2062 
【平日】0824-72-7634
営業時間 11:00~17:00
定休日 月~金(祝日除く)
ホームページ http://nokiti.jp/farm/cheese/

取材・文/平山友美