大澤田葡萄酒店
縁側で語るソムリエ
ちゃぶ台12本ではじめた個性的すぎるワインショップ
「まさか、こんなところに・・・!?」
と、思うようなところにポツンとある山の中のワインショップ「大澤田葡萄酒店(おぞたぶどうしゅてん)」は不思議な不思議なお店です。ワイン好きな人もそうでない人も、ここを訪れたらきっと「庄原の文化」を感じてもらえることと思います。
少なからずこのお店の噂を耳にした方は「すごいソムリエのいるワインショップがある!」とお聞きになったことでしょう。それは間違いではないけれど、ここで味わっていただきたいのは「最高のStay home」の過ごし方。そのヒントがこの葡萄酒店にあるのです。
到着してまずビックリするのは、この店構え。「ワインショップ」とか「酒屋さん」のイメージで来ると、そのギャップに打ちのめされます。
「大澤田」の店名の由来は、この家の屋号(小字名でもある)大澤田(おおさわた)が転じて“おぞた”と呼ばれていることから。
「大澤田葡萄酒店」と7つの漢字が並んでいる時点で「ワインショップ」とのギャップに気付くべきでした。
玄関を開けると、囲炉裏もあったはずの「昔部屋」にワインがずら~り。
「さぁ、どうぞ。靴を脱いでお上がりください。」
普段着のまま、気さくな笑顔で出迎えてくださったのがここの店主でソムリエの吉川直子さんです。
あぁ・・・なんだか、ホッとしました。
すごいソムリエがいると聞いていたので、てっきりトーション片手にソムリエエプロン姿の方かと。
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【こうして寝かせてあるのはワインの品質を保つためでもある】
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【畳の上にずらりと並んだワイン。床の間も囲炉裏もワイン置き場に】
お茶でもどうぞ……といった感じで、すすめられるままに腰を下ろすと、不思議なことに、自然とわが家の晩ごはんのイメージが湧いてきました。
「今晩は水炊きでもしようかと思っているんですが。」
【「水炊きですか……」と、しばしのセレクトタイム】
選んでいただいたのはこの3つ。
【たいてい、3タイプのワインを提案してくれる】
そしてここからが吉川劇場のはじまりです!
分厚いワイン図鑑を広げて、選んだワインを1本ずつ丁寧に説明してくださいます。
(※注 ここから吉川さんのお話の一部です)
「まずね…… なぜブルゴーニュのワインばかりを選んだのかというと、ここは寒暖差がある地域なのでワインに酸味がしっかり入りやすいんですね、水炊きですから昆布やかつお節のうま味がしっかり出てくるお料理ということで……」
「私は「ピノノワール」を軸に選びました。ちょっとご予算があるということでしたので少し高めのものを選んでいます。水炊きも出汁だけで食べる場合もあるかもしれませんが、ピノノワールに関しては、ポン酢かごまだれが付くと理想的です。他の鍋の具材としてうま味のあるもの、鯛のようなさっぱりしたものより例えばあんこうとか……」
「こちらは酸も渋味も苦手、できればさらりと飲みたいという方に向いているワインです。ボジョレーですから、ブルゴーニュ地方の中でもこちら、大きくするとこういう地図になりますこの四角で囲まれた中に10の村がありまして、この中の1つがこのワインのムーラン・ナ・ヴァンという村になります……」
「本来はここが一番力強いワインができる村なのですが、この銘柄、このビンテージに限っては、ものすごく渋味が少なく、ものすごく透明感があり、澄んだ水を飲むような感覚、でも赤ワイン、美しさのあるワインです。なので水炊きのような、お出汁の効いた澄んだ味にはピッタリだと思います……」
(※注 ここまで吉川さんのお話の一部です)
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【地図を示しながら、その土地の気候の特徴、生産者のことなどを分かりやすく説明してくれる】
ワインって・・・こんなに面白かった?
ひとしきり、お話が終わると思わず拍手を、さらには「アンコール」を叫びたくなるような感覚になりました。とっても分かりやすいですね!!
実は大阪生まれ、大阪育ちの吉川さん。都会育ちの上、大阪の著名なホテルでソムリエを務めるなど、かなりの実績の持ち主です。でもソムリエは大変な仕事。もう過労死寸前かというくらい働いて、もうダメかも……と思った時に、ここ庄原に嫁いできたそうです。当初はゆっくり休もうと思っていたそうですが……
「なぜ、またソムリエとして仕事を始めようと思ったのですか?」
「それがね、主人がお小遣いは自分で稼げと言ったから(笑)。」
この場所で何かできることがないかと考えて、2014年、小さなちゃぶ台に12本だけワインを並べてここをオープンしました。ダメだったらすぐ撤収しようと決めていました。でもお義母さまが近所の方に頼んでくださったおかげもあって、ポツリポツリと売れ始め、今では遠方からわざわざ買いに来られるお客さまもたくさん! 約300種、1500本以上の銘醸産地のワインを取り揃えるまでになりました。
そこにはただ口コミ頼みにはしない、吉川さんなりの考えもあったと思います。庄原にいるからできる、都会とは違ったアプローチをしようと。
「この辺りの人ってね、お客さんは誰でも家に上げちゃうんですよね、縁側に座ってお茶菓子まで出して……」
都会育ちの吉川さんには馴染みのないことだったけれど、ここで暮らすうちに「人との距離を縮めるには良い文化だな」と思うようになったそう。
「私はワインの敷居を下げたいんです!」
「ワインって横文字が多いし、分かりにくいですよね。頼れるワインショップもなかったら、ワインを知らないお客さまは甘口、辛口の5段階評価表を見て選ぶしかないでしょう。」
どうやったら、ワインを知らない人にも分かりやすく、もっとワインに親しんでもらうことができるんだろう、そう考えたときこの庄原暮らしの中で知った「縁側のおしゃべり」を思い出しました。
そうだ。お茶とお茶菓子を出して、家に遊びに来てもらう感覚で、どうでもいい雑談でもしながら、まずはお客さまとの距離を無くそう!
これが吉川さんの「戦略」だったかどうかは分かりません。でも天然のワインセラーのようなこの場所に来たら、まずはゆっくりと腰を下ろして、「縁側でおしゃべり」している気分で、その日のごはんに思いをめぐらせてほしいのです。
吉川さんは、ワインが「農産物」であることを教えてくれました。それまで、ワインは飲みたい人が飲むもの、と思っていました。でも地域の農産物の話なら、子どもたちにも聞かせたい。ワインが飲める、飲めないにかかわらず「これを家族にも伝えたいな」と、そう思わせてくれたのです。
庄原の「縁側のおしゃべり」文化を味わったら、「最高のStay home」の過ごし方が見えてくる!
なんて言ったら大げさでしょうか!? 少なくとも、ここを訪れた日の夕食は、会話の弾む食卓になるに違いありません。
店舗情報
店名 | 大澤田葡萄酒店 |
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住所 | 広島県庄原市東城町小奴可548 |
電話番号 | 08477-5-0063 |
営業時間 | 10:00~18:00 |
定休日 | 不定休(HPを随時更新) |
ホームページ | https://www.ozota-wine.com/ |
取材・文/平山友美
未成年の飲酒は、法律で禁じられています。