EDITORIAL REPORT
編集部レポート
森の中の隠れ家『大澤田(おぞた)葡萄酒店』でワイン選び

森の中の隠れ家『大澤田(おぞた)葡萄酒店』でワイン選び

人と集まる機会が多い年末年始。美味しいワインを手土産に…なんて素敵ですよね。
今回訪れたのは、東城ICから車で約15分の場所にある『大澤田(おぞた)葡萄酒店』。周りを山々と田畑に囲まれた、緑豊かな場所にあります。

道中は古い神社があったり、民家がポツポツ並んでいたりと、のどかな片田舎の雰囲気。こんなところにワインショップが…?と思いながら訪れた店は、想像を超える素敵さ!!その魅力を全力でレポートします。

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遠方からも多数のファンが訪れるという『大澤田葡萄酒店』。山間に佇む一軒です。
訪れたのは11月の中旬ということもあり、ちょうど紅葉が見頃に。店のすぐ手前にある緑のトンネルは、モミジが赤や黄色に色づいていて思わずうっとり。「まるでジブリ映画みたい!葡萄酒店って響きがすごく似合う…!」と、店に着く前からテンションマックス(笑)。途中で道に迷うかも…と心配していましたが、要所要所に看板が出ているため、スムーズに辿り着くことができました。

店に到着し、まず驚いたのがそのワインの数!なんと2000本以上が並ぶそうです。そしてさらにびっくりしたのが、室内のひんやりとした空気。「空調を効かせてるのかな」と思って尋ねると、エアコンをつけるのは夏場のみなのだそう。
「ここは床板を一枚はがすと、下が地面なんです。天然の冷気と湿気がワインを良い状態に保ってくれるんですよ」と、店主の吉川直子さん。なるほど、自然のままのワインセラーなのかとすごく納得しました。

こちらの建物は、吉川さんの嫁ぎ先である家の一部をお店にしたもの。義理のお父さんが手造りで建てたそうで、好きだったという建具や美術品が随所に散りばめられています。立派な梁や柱が重厚感たっぷりで、この空間を見るだけで訪れる価値がありそう。絵画は現在、吉川さんが選んだという、東城出身の画家・奥田敏雄さんの水彩画や、コント集団『ザ・ニュースペーパー』の福本ヒデさんによる風刺画で彩られています。

店主の吉川さんは大阪出身で、かつてはレストランなどでソムリエとして活躍していました。ワインの世界に飛び込んだのはバーで働いたことがきっかけで、その店のオーナーが「これからの時代はカクテルよりワインだよ」とスタッフにもすすめていたのだそうです。まだ若かった吉川さんは、すすめられるがままワインを口にし、「こっちは渋い、こっちは飲みやすいかも」と、感じた通りを素直に述べていました。オーナーは、「それでいいんだよ。ワインって個性があって面白いよね」と、吉川さんの感想を喜んで聞いていたのだそうです。

乗せ上手なオーナーの存在もあって、吉川さんもワインを面白いと感じるように。そう裕福でなかった当時、1冊のワインの本を買って、ボロボロになるまで繰り返し読んだといいます。その後、実際に生産地を自分の目で見たいと、お金を貯めてフランスのボルドー地方へ。当時、自分の人生に迷いがあった吉川さんは、まるで宝石が実っているようにキラキラと美しいブドウ畑を見て大いに感激し、「私の生きていく道はこれしかない」と決意したのだそうです。

その後はホテルのフレンチレストランで働きながら、ソムリエを目指すように。しかしながら当時のソムリエはまだ男の世界で、関西地方で活躍する女性は稀だったといいます。ホテル内の複数の店で研鑽を積みながら、ついにはソムリエのなかでもベテランのみが取得できる上位資格「シニアソムリエ」を手にします。

さらにいくつものコンクールにも出場し、全日本大会で優秀な成績をおさめたり、ワインスクールで講師を務めるほど実績を重ねました。しかし、長年の頑張りがたたって体を壊し、不調をきたすようになったことで転機が訪れました。同じ頃、仕事を通じて出会った東城出身の旦那様と結婚を決め、こちらに移住したのだそうです。

「結婚した当初は、もうワインの仕事をするつもりはなかったんですよ。けれど、夫が『自分の小遣いは自分で稼ぎなさい』と(笑)。家の畑仕事を手伝ったりもしていたんですが、『それだと、あなたらしくないんじゃない』って言われたのも大きかったですね」と、吉川さんは当時を振り返ります。

 そんな経緯を経て、2014年に開業した『大澤田葡萄酒店』。最初はワイン1ダースから始めた小さな店でしたが、口コミで噂が広がり、これだけの規模へと成長しました。

魅力は何と言っても、吉川さんの圧倒的な知識とワイン選びの巧みさ。テーブルワインなら1600円~数万円までと、価格も産地も飲み口も幅広い種類のワインがそろいます。さらに冒頭で述べた通りワインの保管状態がとても良く、生産元から変わらぬ品質で輸入された味わいを楽しめます。

東城ならではの“縁側文化”も大切にしたいと、おしゃべりしながらワイン選びができるのもポイント。ホットカーペットの敷かれた談話スペースで、お茶をいただきながら、心ゆくまでワイン談議に花を咲かせられます。

都会育ちの吉川さんは、移住当時、誰にでも「うちに上がってお茶でも飲んでいったら」という田舎のもてなしに心底びっくりしたそうです。けれど今では、その文化自体がすごく貴重なものだと考え、店でも同じようなもてなしをしています。

 今回、私もせっかくなので、ワインのセレクトをお願いすることに。クリスマスに飲みたいなと思い、予算3000円程度で大好きな白ワインを選んでもらうことにしました。「どんな飲み口が好き?なんの食べ物と合わせたい?」と、吉川さん。「すっきりした辛口が好きで、パテやテリーヌと合わせたいです」と答えると、3本を選んでくれました。


「それぞれどんなワインなのか簡単に紹介しますね」と、分厚い辞書のようなワイン大全を開き、詳細を教えてくれることに。この話がものすごくわかりやすい…!ワインにあまり詳しくない私ですが、引き込まれるように聞いてしまいました。

 そして最終的にチョイスしたのが、フランスロワール地方で醸された「ミュスカデ セーヴル・エ・メーヌ」(2420円)。生産者はドメーヌ・デ・オー・ペミオン、説明には「爽やかな青りんごの旨味を思わせる香り。新鮮ではつらつとした酸味。甲殻類、白身魚とぴったり」と書かれていました。

吉川さんに教えてもらって勉強になったのが、エチケット(ラベル)の見方。「ミュスカデ」はブドウの品種を指し、ロワール川の河口近くが一大生産地なのだそうです。「ロワール地方は養豚もさかんで、各家庭でハムやソーセージなどいろいろなシャルキュトリ(主に豚肉を使う肉加工品)を手作りするんですよ。パテと合わせたいって言ってたから、きっとぴったりだと思います。魚介にもよく合うので、どちらも試してみてくださいね」と、吉川さん。

さらにエチケットの2行目に書かれていた「シュール・リー」という言葉は、醸造法を表すのだそうです。「フランス語で“澱の上”を意味し、その名の通り、発酵を終えた微細な沈殿物(澱)をそのまま寝かせるんです。澱を一定期間熟成させることで、旨味が凝縮されたワインになるんですよ」。

説明を聞いていると現地の景色が目に浮かぶようで、ちょっぴり旅した気持ちになりながら、ワクワクして商品を選ぶことができました。飲むのが楽しみすぎる…!!

 リピーターのお客さんは、まずはここのワインがとても美味しいこと、そして吉川さんの話の面白さに虜になり、何度も足を運ぶのだそうです。

また、輸入元との長年の信頼関係から、都市部でもめったにお目にかかれないようなカルトワイン(評価が高く、少量生産で極めて入手困難な高級ワインの総称)が稀に入荷することもあるそうです。ただしこちらは、「ネット販売で5秒で売り切れます(笑)」とのことなので、興味のある人はぜひHPをチェックしてみてください。

個人的には、森の中のような環境で、吉川さんの話に耳を傾けながらワイン選びができる店での買い物が、すごく贅沢だなぁと感じました^^

ブドウジュースや、吉川さんおすすめのオリーブオイル、ブラックペッパーなども扱っているので、ワイン好きの人もそうでない人も満足の時間が過ごせるはずです。

 【問合せ】
大澤田葡萄酒店
住所)庄原市東城町小奴可548
電話番号)08477-5-0063
HP)https://www.ozota-wine.com/