EDITORIAL REPORT
編集部レポート
市民向けローカルガイドツアー「庄原酒蔵めぐり」開催

市民向けローカルガイドツアー「庄原酒蔵めぐり」開催

地域の魅力を再発見し、参加者同士の交流を目的に庄原DMOが定期的に開催している「市民向けローカルガイドツアー」。
夏には「エコラフティング」や「大鬼谷リバーウォーク」を、秋には「比婆山トレッキング」や「高野りんご収穫体験」などを実施し、好評を博してきました。このツアーの良いところは、観光やローカルガイドに興味を持っている人が、無料(※交通費や飲食代などは実費負担)でツアーに参加できる点。原則は庄原市民が対象ですが、近隣地域に住んでいる人や庄原に縁のある人なら参加OKです。
今回は12月3日(火)に「庄原酒蔵めぐり」を開催。東城と庄原にある3つの酒蔵を訪れ、試飲や見学を楽しみました。私、ライターの浅井も参加者の一人としてお邪魔してきたので、その時の様子をレポートします! 

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この日はラッキーなことに快晴。13時半に東城町の「生熊酒造」に集合しました。

現地に直接来た人のほか、移動が難しい参加者は庄原DMOのスタッフがクルマでピックアップ。参加者、スタッフ含め、総勢12名でのツアーとなりました。

生熊酒造が位置する東城町は、古くから砂鉄を原料とした「たたら産業」がさかんで、「くろがねどころ」と呼ばれた地。山陰地方の日本海と山陽地方の瀬戸内海を結ぶ陰陽連絡街道の中継地でもあったため、物資集散地として賑わう交通の要衝でした。江戸時代は1万石の城下町であり、今でもいたるところに往時の面影を宿します。

そんな町の風情をツアー開始前から楽しんでいる参加者の様子も見受けられ、集合時にはすでに散策やお買い物を満喫してきたという人も(笑)。「後藤商店さんの赤酢買ってきちゃった~」なんて会話が交わされ、場が和みました。
生熊酒造では、はじめに生熊陽子さんから蔵の歴史や酒造りのポイントについてお話をいただきました。

生熊酒造は慶応元年(1865年)に創業した老舗の蔵で、看板銘柄は硬水仕込みの「超群」。庄原の酒は硬水で仕込まれることが多いんですね…!広島市在住の私は、東広島市を中心に造られる軟水仕込みの酒に馴染みがあるので、まずその事実に驚きました。
カルスト台地から湧き出る仕込み水はミネラルが豊富で、どちらかといえばキリッとした口当たりになるのだそう。「ぜひ飲み比べてみてください」と、試飲をすすめてくださいました。

用意されていたのは、大吟醸、純米酒、純米吟醸、純米大吟醸の4種類。クルマの運転をしなくていい参加者とスタッフは「待ってました~!」とばかりに早速手をのばします^^
「わ~、これちょっと独特の香りかも」「こっちは飲みやすい!」と、さまざまな感想が飛び交います。「酒米は何を使ってるんですか?」「仕込みはいつから始まるんですか?」と積極的に質問する様子が見られ、皆さん興味津々。

人気が高そうだったのは、軽やかな香りが楽しめる純米吟醸と、米のふくよかさやコクがしっかり表現された純米酒。日本酒好きながらクルマの運転があるため試飲を控えていたスタッフは、「せめて香りだけでも…」と、その芳醇な香りを堪能していました^^

 「超群」という商品名は、「連山のなかで超然とそびえる富士山のように、また群鶏のなかの一羽の鶴のように酒造業界で秀でること」を願って命名されたものだそう。昇り龍のデザインも相まって、凛とした格好良さが際立ちます。300ml、720ml、1.8lとサイズもそれぞれあるので、普段使いから贈答用まで幅広い用途で楽しめます。

また老舗の蔵だけあり、直売所の一角には絵皿や古い酒器、お道具箱のようなものがずらり。「年代物なのでは?」と生熊さんに尋ねると、「朱塗りの夜食膳などは、今は貴重かもしれませんね」と教えてくれました。
大正末期に作られたといわれる、着物女性がほほ笑む木製看板などもあり、店舗の調度品を眺めるだけでも価値ある時間。試飲は随時行っているそうなので、ツアーに参加できなかった人も、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

【生熊酒造】
庄原市東城町川西887-1
08477-2-0056

次に訪れたのは、生熊酒造から徒歩10分ほどの場所にある「北村酒造場」。

江戸時代後期の天保年間に創業した古い蔵で、看板銘柄は「菊文明」。こちらの酒も生熊酒造さんと同様に、硬水仕込みです。社長夫人の北村裕子さんと息子の峻一さんが温かく出迎えてくれました。

北村さんの説明によると、本家は大阪方面からこの地に移ってきたといわれる寺侍で、北村酒造場は今から約200年ほど前に分家し、はじめは醤油を、そののち清酒造りを生業とするようになったのだそうです。
蔵人は雇っておらず、親子三人で酒造りに励む実直な蔵。山口県出身という参加者の一人は、「実は東城町で暮らすようになるまで、こちらのお酒を知らなくて。初めて飲んだ時は『わっ、真面目に酒造りをされてるところなんだな』ってびっくりしました」と、感に堪えぬような表情で感想を述べていました。こちらでも4種類の酒を試飲させてもらうことに。しぼりたて原酒と合鴨純米原酒、純米八反錦、吟醸原酒を用意してくれました。

一番人気がありそうだったのは、令和2年の清酒鑑評会純米酒部門で優秀賞を受賞した「合鴨純米原酒」。町内にある「藤本農園」のアイガモ農法で作った米を原料米にしているそうで、飯米として用いられる中生(なかて)新千本を使用。米と米麹のみで造られる酒は体に優しく、米の旨味がしっかり伝わる飲み口。日本酒が苦手な人から、「この酒なら飲める」と言われたこともあるそうです。

また、吟醸原酒を口にした参加者からは、「これも美味しいけど、山田錦(酒米)の酒は味わいが同じように感じるかも」という鋭い意見も。「そうそう、そのぶん山田錦を使った酒は酒質が安定しやすいんですよ。そのあたりが、“同じ味”と感じる要因でしょうね」と、北村さん。

「僕も酒は少し色気があるほうが好きかな。喉を通った後に、ぐっと香りが上がってくるような。いやしかし、手作業でこれだけの酒を安定して毎年醸すっていうのは本当に容易じゃない。こういう蔵が残っていってほしいなってすごく思います」と、別の参加者。
皆さんの、日本酒への思いがしっかり感じられる時間となりました。

北村酒造場の酒は基本的に庄原市内でしかほぼ流通しておらず、蔵元のほか、道の駅や市内の酒販店で購入できます。広島市内で見かけることはほとんどないので、希少性もポイント。日本酒好きの人に贈り物にすると喜ばれそうです。

【北村酒造場】
庄原市東城町東城356
08477-2-0009

最後に訪れたのは、庄原市三日市町に蔵を構える「比婆美人酒造」。各々で移動し、現地で再集合しました。

社長の山本修三さんみずからが、蔵のなかを案内。

米を蒸す釜場から搾り機が並ぶ作業場まで色々なところを見せてくれました。酒造りを行っている最中なのか、ところどころでは蒸し上がった米や醸造の甘い香りがふわり。杜氏さんにもお会いすることができました。

こちらでは米作りを自社で行っており、八反35号や夏の暑さに強い萌えいぶきといった酒米を育てています。「窒素が豊富な肥料を使うと、タンパク質の多い米ができます。酒造りに適しているのはタンパク質の低い米なので、理想とする味を生み出すために私たちは米作りから行っているんですよ」と、山本さん。

ひんやりとした冷房室には、完成した酒が並び圧巻の光景。

「蔵元さんには、絶対に市場に出回らない、蔵人だけが飲める特別な秘蔵酒があると聞いたんですが本当なんですか?」と、参加者から都市伝説のような質問も飛び出しました。「秘蔵酒ですか… どうでしょうか…」と、山本さんも思わずニヤリ。とても気さくな社長さんで、参加者との会話を大いに盛り上げてくれました。

見学の途中では、仕込み水の試飲も。こちらでは敷地内の井戸から汲みあげる、硬度51の中硬水を使っています。ホースの先から溢れる清水をカップに注いで、参加者もスタッフもゴクリ。

「わ、意外と冷たい」「まろやかな感じ」と、皆が一様に笑顔に。私もいただきましたが、中硬水と聞いていたのでちょっと尖った感じを想像していましたが、思ったよりもクセがなくスッと染み入るような美味しさでした。

 最後はお待ちかねの日本酒の試飲。本醸造上撰「快」、純米生酒、八反純米吟醸酒、大吟醸を並べてくれました。

皆がそれぞれ気になる銘柄を手に取り、ラベルを眺めて使っている酒米を確認したり、味わいを確かめたりしました。

「大吟醸の磨き(精米歩合)はどれくらいなんですか?」と、日本酒好きならではの質問も飛び出て、山本さんもびっくり。「詳しいですねぇ。うちの大吟醸は磨き40%なんです」と嬉しそうに教えてくれました。

参加者の一人に「どれが美味しかったですか?」と尋ねると(注:私はクルマの運転があったため試飲はできずでした……)、「ピンク色のパッケージの効果もあるのかもしれませんが、私は純米生酒の優しい味が好きですね」と、にっこり。

皆が思い思いに好きな味を見つけ、比婆美人酒造さんの酒を存分に堪能しました。

【比婆美人酒造】
庄原市三日市町232-1
0824-72-0589

 最後に参加者の何人かに、この日の感想をいただいたので紹介します。
「普段は地元の宿泊施設に勤務しているんですが、お客さまから地酒についての質問を受けることも多くて。今回直接蔵元さんからお話を聞くことができ、いろいろと勉強になりました。今後は自信を持って、お客さまに地酒のご案内ができそうです」

「以前からローカルガイドツアーに興味を持っていて、参加したいなと思っていました。日本酒が好きなので、今回の企画を見て『これだ!』と(笑)。普段見られないような蔵のなかを見せてもらうこともでき、楽しかったです」

「観光系の仕事をしているため、観光客の皆さんから庄原のおすすめスポットなどをよく尋ねられるんです。もっと自分自身が地元のことを知って、お伝えできればなと。今回は酒蔵さんについて学ぶことができたので、その良さをどんどん広めていきたいです」

市民向けローカルガイドツアーは、この先、2025年1月18日(土)「庄原サウナ講座」や、1月22日(水)「スノーシューハイク」、3月1日(土)「E-バイク歴史探訪」を開催予定。

いずれ劣らぬ素敵な企画になっていますので、興味がある人は、ぜひ庄原DMOまでお問い合せください。