備後庄原~備後落合~東城へ!片道990円のワンマン列車旅
【備後庄原~備後落合~東城へ!片道990円のワンマン列車旅】
シルバーウィークにクリスマス、年末年始。秋から冬にかけては連休が多く、「どこかへ出かけたい!」という気持ちが高まります。遠出のドライブやお泊りもいいけれど、身近なマイクロツーリズムはいかがでしょう?
今回はJR芸備線で、備後庄原駅から東城駅まで片道のみの列車旅を敢行。日帰りで楽しめる距離なので思い立った時にトライできます。便数が少ないため帰りの手段を考えておく必要がありますが、ワンマン列車にコトコト揺られて里山の景色を眺める時間は、ほかでは得られない癒やしのひと時。
鉄道ファンから熱視線を集める「備後落合駅」のおすすめポイントや、今回の旅のゴールである「東城駅」周辺の観光情報も併せてお届けします。
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旅の出発は備後庄原駅から。大正生まれの木造駅舎を壊さずに改修した備後庄原駅は、レトロな趣があちこちに残ります。アンティーク風の可愛らしい照明がついた待合室は、大きな窓から日の光が差し込むくつろぎの空間です。改札をくぐると雰囲気は一変し、かつてマツダスタジアムに設置されていたカープのオブジェがずらり。庄原市内に球団初の公設応援団があるそうで、こちらも応援の一環のようです。
今回は備後庄原駅13:35発・備後落合駅14:19着、ここで乗り換えて備後落合駅14:42発・東城駅15:32着の便をチョイス。(※ダイヤは取材時のもの)
この場合だと帰りの便がなくなってしまうので、東城駅発の高速バスをチェックしておきましょう。備後庄原駅前の備北交通本社に詳しい時刻表が置いてあります。同社のロビーにはちょっとしたお菓子や飲み物、お土産なども用意してあるので、出発前におやつを買っておくのもいいかもしれません。
ホームでぼんやりと待っていたら、来ました来ました!パープルとブルーのラインが可愛らしい、ワンマン列車が!実は私、JRのワンマン列車に乗るのは初めてで、それだけでワクワク。
後方から乗り込み前方で降りるシステムのようで、中にはバスのような運賃箱や料金表が。乗り込んだ車両はボックス席がなく、両端にシートが設置された造りでした。平日の昼間だし、あまり利用する人は少ないのかな…と思っていましたが、意外と乗客がいるのにびっくり。なかには明らかに鉄道ファンと思われるご夫婦もいて、車窓から写真を撮ったり、鉄道のパンフレットを熟読している姿が見られました。
備後庄原駅から備後落合駅にかけては、4つの駅をはさみます。西城川に沿うように進んでいき、ところどころは山の斜面スレスレ!途中でカンカン、パチパチ…みたいな音がして、何だろう?と思ったのですが、木の枝葉が車体に当たる音なんです!後で運転士の方に話を聞いたところ、落石注意の箇所が多いので、汽笛を鳴らして警告したり減速して安全に気を配っているそうです。
減速しているぶん、外の景色をゆっくり眺められるのもうれしいところ。乗車したのは10月下旬頃だったので、川沿いにはセイタカアワダチソウやススキが揺らぎ、田畑には遅咲きのソバの花やコスモスが可憐に咲いていました。山の斜面沿いを通る時は、森の奥までが見渡せそうな近さ。これはうまくいけば野生動物を見つけられるかも…なんて、思わず目をこらしてしまいました^^
備後西城駅のあたりでは、地元の老舗醤油蔵の赤煉瓦煙突や白壁の家々、古い寺社などが見えて情緒たっぷり。さらに比婆山駅から備後落合駅にかけては、トンネルが多い!暗く細いトンネルを通過する瞬間は、まるでアトラクションのような面白さがありますよ。
そうこうしているうちに、第一の目的地である備後落合駅に到着。備後落合駅は、JR西日本の岡山支社、米子支社、広島支社の境界の終着駅としてすべての列車が折り返す駅。3つの路線が落ち合うため、「落合駅」という名がついたそうです。1935年に開業して以来、交通の要所として栄え、最盛期には100名の職員がいたことも。当時の面影をそこかしこに宿していて、鉄道ファンにとっては聖地ともいえる駅です。
ここでぜひお会いしたいのが、元国鉄機関士で、現在は備後落合駅のガイドをしている永橋則夫さん。駅のそばで生まれ育った永橋さんは、かつては国鉄機関士として大阪の機関区や中国地方各地の線区で働き、国鉄民営化後の1993年に50歳で早期退職しました。1997年に備後落合駅は無人駅となり、寂れていく様子を目にしながらやりきれない思いを抱えていたそうです。三次市と島根県江津市を結ぶ三江線の廃止が決定したのを機に、「この駅を守っていきたい」と一念発起。有志のボランティアとして、駅前の雑草取りやトイレ掃除をみずから始めたのだといいます。
活動は現在8年目に入り、今では乗り継ぎの乗客を案内したり、駅の歴史を伝えるガイドのような役割も担います。待合室には永橋さんが集めた昔の駅や機関車の写真が展示しているので、ぜひ見てみてください。
年間350日ぐらいは駅にいる(!)永橋さんですが、残念ながら取材時はたまたま不在。その日いた職員さんに話を聞いたところ、いろいろと見どころを教えてくれました。
まずは線路向こうにある転車台。
蒸気機関車が走っていた時代、機関車の向きを変えるために使用されていたそうです。隣には石炭を保管する給炭水場のようなものもありました。ホームに作りつけてあるミラーには黒いテープが巻かれていて、これは雪の深さを測るためのものだそうです。備後落合駅は豪雪地帯なので、かつてはかなりの大雪が降っていたとのこと。待合室には大きな火鉢や石油ストーブが置かれ、コミュニティの場としても機能していたようです。
待合室に向かうには、ホームから線路を横切る横断歩道を渡りましょう。駅の開業時は跨線橋(こせんきょう)があったのですが、太平洋戦争時の鉄不足で撤去されてしまったそう。こちらの横断歩道、よく見るとホームの階段部に黄色のペンキで「右」「左」の文字が。職員さんになりきって、指差し確認してみるのも楽しいですよ。待合室の掲示板には、かつての切符売り場が隠れています。切符売り場の一段下がった台は、荷物預かり所として使われていたそうです。
永橋さんがいる時は、さらに詳しい話や現役時代の貴重なエピソードを聞かせてもらえるので、興味のある人はぜひ話しかけてみてください。
備後落合駅に到着した少し後、ラッキーなことに3台の列車がそろい踏み。
1台は庄原から乗ってきた列車、もう1台は新見方面からやってきた列車、そして最後の1台は木次線の列車です。この木次線の列車、鮮やかな水色と黄色のツートンカラーがとっても可愛い!フロント部分には「き♡(きすき)」のロゴがあり、思わずいっぱい写真を撮りました♪
つかの間の鉄子気分を味わい(笑)、その後は一路東城駅へ。ここからの見どころは、備後落合駅から道後山駅の間にある小鳥原(ひととばら)第一鉄橋。高さ30m、全長146.2mで中国地方一の高い鉄橋になります。渡る瞬間に車窓から下をのぞきこむと、かなりの高さなのがわかりますよ!
さらに備後八幡駅の近くには、川向こうにあった帝国製鉄竹森工場と駅を結んでいたトロッコの鉄橋が残ります。「くろがねどころ」として栄えた東城で、伝統のたたら製鉄を基にした技法で鉄需要を支えましたが、昭和30年代に閉鎖。錆びた鉄橋が、当時の歴史を物語っています。備後八幡駅から東城駅間では竹森工場跡を見ることができるので、探してみてください。
そして列車は、いよいよゴールの東城駅へ。
乗り換えも含め、片道2時間ちょっとの列車旅。1000円以下の日帰りプランでじゅうぶんリフレッシュできました^^
東城駅周辺には、手作り感満載のランチと木工品雑貨が並ぶカフェ『Zakka&Café YABUKI TATEGU TEN』、天井一面のドライフラワーがフォトジェニックなフラワー&カフェ『HANATOJYO』、地元が誇る老舗饅頭店『竹屋饅頭本舗』、銘菓「雄橋」を提供するお菓子処『延城堂』など、見どころたくさん。戻りの時間まで散策してみてはいかがでしょうか。
また、泊りがけでゆっくり楽しむなら、帝釈峡神龍湖ほとりに建つ『帝釈峡観光ホテル 錦彩館』や、食事自慢&民芸調の宿『養浩荘』、体験プランが充実の『休暇村 帝釈峡』といった施設も充実。いずれも東城駅まで迎えに来てくれるので、お泊りで東城を満喫するのもおすすめです。